3. コースウェアの開発にあたって

「古い物調べ(3年社会)」

     コースウェアを開発するのに大変な時間がかかるのではないかということはよく言われる。実際、45分のコースウエアを作るのに、120〜150時間ぐらいかかるのも事実である。そしてその時間のほとんどをコンピュータにむかって作業しているのではないかと思われる。
     しかし、コンピュータを使っての作業は、3分の1以下である。なぜなら、コースウェア作成のほとんどは開発の前提条件となる分析や調査などの時間に多くを費やしているからである。
     コースウェアの作成で大切なことは、入力するまでの間にどのような順序でどのような内容を学習するか、もし学習者が理解できないときには、どのような治療を行うかというような細かい部分について十分検討することである。
     今回開発したコースウェアが、本校で作成した最初のコースであり、ゼロからのスタートということで、とても多くの時間がかかった。では、初心者であるわたしたちがどのようにして、コースウェアを開発していったか述べていきたいと思う。
▲図11 コースウェアの開発手順のフロー「未来の教室」より


    ア.優れたコースウェアに触れる。

     先にも述べたようにコースウェアの開発が初めてなのでコースウェアとは、どういうものなのか、実際に動作チェックをして体験をしてみた。これは、学習者がCAIで学習するということがどんなことなのか知る必要があるからである。
     私達教師は、CAIによる個別学習を経験した者がいない。したがって画面構成や質問の仕方などを優れたコースウェアから学ぶことは、重要であり、有意義であった。


    イ.コースウェアの開発方針の決定

     コースウェアの目的、利用形態、教育目標などの全体構想について、開発チーム全員でアイデアや意見を出し合い、話し合うことを最初に行う必要がある。3人よれば・・・ではないが、ここでじっくり話し合うことは、質の良いコースウェアを作るうえでは、大切なことである。またチームの人たち全員の共通理解の上に立った基本方針を作ることは、あとの作業に大きく影響するのである。

    (話し合う内容)

    (1) 教科と単元-社会「市の人々の暮らしの移り変わり」

    (2) 学年−3年

    (3) 指導計画の中での位置付け−導入で扱う

    (4) 学習者に達成させたい目標
     主人公の活動(行動)を通して、昔の道具や生活の様子に興味・関心を持たせる。

    (5) 学習者にどのような活動、思考をさせるか。
     昔の道具や生活の様子を、今のそれぞれと結び付けながら考えさせる。

    (6) コンピュータの役割
     今回のコースウェアは、主人公が昔にタイムスリップし、さまざまな活動を通して、昔の生活の様子を知るということでシュミレーション的な扱いで行う。また、質問については、説明してから行うようにし、原則的に知らないことを質問することは避けることにした。


    ウ.学習者と教材に対する理解

     コースウェア作成の準備として目標を分析し、学習者のデータを収集・分析しなければならない。これは、コースウェア作成のためばかりでなく、一斉授業を行う上での教材の見方や考え方を深め、学習者の反応を予想する力を身につけ、手助けとなるのである。

    (1) 教科書、指導要領の分析

    (2) 達成目標の細分化

    (3) 学習者のデータ収集とデータ分析

    (4) 学習活動のなかで予想される反応とそれへの対処の仕方


    エ.コースウェアの全体構想の修正

     学習者の実態調査をもとに、コースウェアの設計修正を行なう。

    (1) 学習活動についての話し合い
     目標を達成するために必要となる学習活動を書き出し、それに合わせて、学習者に課する問題を整理する。

    (2) 予想される反応と処置について
     学習者の反応を実態調査の結果や経験から予想し、その対処の方法を検討する。


    オ.コースアウトラインの作成

     基本設計が終わったら、導入、基礎、治療、発展等の学習の活動を決定し、課題を配列していく。今回の場合は場面ごとの配列で行なった。さらに、各課題(場面)の後でコーディングで使用するラベルをつけ、問題の配列をフローチャートの形であらわす。


    カ.資料収集

     事前調査から、祖父母がいる児童が多いことから、時代設定を60年前にした。これは学習に際して、祖父母から昔の様子などを聞くなどの学習活動を考慮してである。また、その当時の時代考証をするために事前調査をしたり、資料を収集したりした。

    (1) インタビュー(その当時の生活等に詳しい人)

    (2) 歴史民族資料館(郷土資料館)
       ・・・竜ヶ崎、牛久、土浦、つくば

    (3) さくら民家園

    (4) 房総風土記の丘資料館

    (5) 牛久市市史編簒室

    (6) 各図書館など
     ビデオや写真の撮影をしたり、保護者の協力を得て、実物資料を収集することもできた。この取材を通して、教師が教材をより深く知ることになり、コースウェアの課題やアウトラインを考えたり、正確なその時代の様子を再現するのにはとても重要なことであると実感した。


    キ.実物の利用

     たとえCAIの授業でも、本物に触れたり見たりすることは大切なことである。いかに実物を収集し、それをコースウェアの中でどのように位置付け、調べ学習に役立てていくかを考えなければならない。


    ク.その他の機器の利用

     先にも述べたが、本物に触れることは大切なことである。実物が用意できないときには、スチルビデオ等を使い、できるだけ実物に近いかたちで子どもたちに提示するように努めた。

 今回のCAIの授業では児童がモニターの前にじっと座って行なうのではなく、3年生という発達段階を考え、手でさわったり、見たりする活動を積極的に取り入れていくコースウェア作りに取り組んだ。また、物語り形式のコースウェアなので、場面設定や話が飛躍せず、児童の思考にあった内容にしたり、話をわかりやすくするために数多くのグラフィックスを使用したりした。また、単元の導入ということなので、次の学習内容に意欲が高まるように、コースの中で擬似体験ができるという内容にしていった。
 CAIの授業といえども主役は児童であり、あくまでもコンピュータは児童が学ぶのを助けるということ、そして、児童が学び方を習得するのを助ける一つの手段であるということを、コースウェア開発を通して学ぶことができた。