1. はじめに

1. 性教育のコースウェア開発に取り組んだ理由

     性教育は、学級指導の年間指導計画の中で全学年にわたって3〜4時間ずつ指導するよう位置づけられている。
     低学年における性教育は、心情に訴えながら基礎的な指導をするもので指導上特筆すべき点はないが、高学年になると様々な配慮が必要になり指導しにくい領域のひとつと言える。
     その理由として次のような点が挙げられる。

    性教育に関する指導の範囲や方法等が専門家のうちにも諸説あって、指導内容や方法が確立しておらず、指導に際して自信が持てない。

    本来羞恥心を伴うものなので、本音が出ず話し合いが深まりにくい。

    マスコミや雑誌などの誇張されたり間違ったりした情報に惑わされて、無関心を装ったり、意欲が低かったりして指導しにくい。

    性的な成長は、個人差が大きい。成長の遅い場合も速い場合も、特に思春期においては不安を伴い、ともすれば教師や友達に隠そうとするので、実態がとらえにくく、指導が適切さを欠くことがままある。

    成長過程で両親やまわりの人たちから受けた影響や児童が現在おかれている家庭の人間関係が千差万別なので、心情面に踏み込みにくい。

    性的な欲望は個人差がある上に衝動性を伴い、特に思春期には不安定である。ひとつ指導を誤ると不純異性行為や将来の性生活のゆがみ等を生ずる恐れがあるので、個に応じて慎重に指導しなければならない。

     これまでは、同学年の担任が養護教諭を交えて、指導内容を確認し合ったり指導方法を吟味したり資料を工夫したりして性教育の指導をしてきた。
     しかし、事前の検討にもかかわらず、事後の反省点は多かった。
     もし、個人差に応ずる教育を最大のねらいとするCAIで性教育を行うことができるならば、上の諸点は克服できるのではないかと考えた。
     また、誰もいない所でこっそりと性に関する書物や写真などを見たいという思春期の心理は、ひとりで1台のコンピュータに向かって、自分でキーをたたきながら知識を得るという方法で満たされる点が多いものと思われる。
     そこで、5・6年の性教育の学習内容を6つに分け、それぞれ1本ずつのコースウェアを作成して指導することにした。(4−1参照)
     6本のコースウェアが完成した暁には、指導内容・指導方法・資料とも兼ね備えたものを用い、児童の個人差に応じながらどの学級も同じように指導できる上に、教師の共通理解が得られて指導が充実し指導体制が確立できる。
     昭和63年度に教材1「おとなになる体」と教材6「大脳と理性」、平成元年度に「生命の誕生」のコースウェアを作成した。今後、残り3本のコースウェアを作成する見通しを持っている。
     また、3本の作成への努力に勝るとも劣らぬ程に、既に作成した3本の改良に力を注ぎたいと考えており、よりよいコースウェア作りへの長期展望に立った研究の途上に本年度の研究を位置づけている。

2. 性教育における自己認識

     性教育は、本来自己認識の教育である。
     また、思春期における性教育の最大のポイントは、性的な成長過程において、自分がどの段階に位置するかを認識することにある。
     そこで、本校の研究主題「自己教育力を育てる学習指導のシステム化」を受けて、性教育の研究主題を「自己認識力を育てるCAI教材の開発」とし、性教育における自己認識を次のようにとらえた。

    (1)自己の存在を認識

     自分はどのようにしてこの世に生を受け、今ここにこうしてあるのかという疑問に答え、生命誕生の神秘を科学的に理解させることにより、自己の存在そのものを認識させることができる。


    (2)自己の成長過程を認識

     性器のしくみや機能、成長過程を科学的に正しく理解させ、自己の性に関する発達状況や心情等をコンピュータに入力させ、それを集計して、KR情報を与えることにより、自分は今、成長過程のどの段階にあるかを認識させることができる。


    (3)自己存在の意義を認識

     自分が誕生し成長して今ここにこうしてあるために、両親初め多くの人の努力や苦労があることを気づかせ、自分もまた、新しい生命誕生にかかわり、種の保存のために生きるということを理解させることにより、自己存在の意義を認識させることができる。